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「”無意識”の感覚を、”意識的”に表現したい。
見て、触れて、小さな発見を感じてもらえたら嬉しいですね。」

佐藤輝典(toya/アクセサリー)

「この馴染む感覚が好きなんです」。
一見変哲もないその固まりを手のひらで転がしながら、佐藤さんは街に目を落とす。
創作過程で切り出された端材は形を変え、新たな命を宿す。
細かな窓や階段が施された建物に、ニつとして同じものはない。

 アクセサリー作家の佐藤輝典さんが、
同じく作家の妻・妙子さんと営むのが、アトリエ『toya(とや)』。
日々少しずつ、当たり前に歳月を重ねる「木」の文字に由来するその名が示すように、
京都の静かな町の一画にその根を降ろす。
二人のオリジナル作品に加え、「自分たちがおもしろいと感じられる」作家作品も取り扱う
そのアトリエ、その作品には、
「長く丁寧に使い続けたい」と思わせてくれる体温がある。

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 大学を卒業後、一年間の工房勤めの後、独立。
「かなり長い間、アルバイトと掛け持ちの生活でしたね」と笑う。
模索する日々は十年近く続いたが、それでも「一度も辞めたいとは思わなかった」という。
「創り出されたばかりのモノは、きっと自己満足だと思うんです。それを世間に問うてみる。
どんな感想が聞かれるか。どんな感覚が得られるか。
その繰り返しで、気づくと今日まで来ていた感じですね」。
今ではアトリエでの販売に加え取り扱い先は全国各所に至るが、
それでも「その反応が感じられるから」と毎年6〜7本のイベントにも参加する。
「その土地に行くのが好きなんです。
風景を眺めたり、その地に根付いたお店を訪ねてみたり」。
学生時代にはよく一人旅にも出かけたという佐藤さん。
普段のそれとは違い、珍しく少し熱を帯びた口調で魅力を語ってくれた青春18切符の旅のように、
効率的ではないけれど、ゆっくりだからこそ見られる風景がある。
toyaを営む佐藤さんの姿には、どこかそんな風景と重なって見えた。

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 アトリエ『toya』の向かいにあるギャラリー『108(いちまるはち)』では、
不定期に様々な作家の展示会が行われる。
今回訪れた際に展示されていたのが、佐藤さん自身の作品『小さな建築群』。
元々、アクセサリーの創作行程で切り出された
真鍮(しんちゅう)や銀の端材を新たに活用する方法として始まった。
「ほとんど趣味でつくってます」と佐藤さんは笑うが、
不規則に並んだひとつひとつの建物が創り出す机上の空間には、
金属に抱く冷たい印象とは違い、街の、家庭の、人々の醸し出す温かな空気が感じられる。
「以前参加したイベントで、アクセサリーブースの横に初めて展示してみたんです。
お客さんにアクセサリーの説明をしている時にふと気づくと、
一人の小さい男の子が傍らで建物を並べて遊んでいたんです。レゴみたいに。
その時にこういう親しまれ方もありがたいなって嬉しく感じました」。
そんな小さな街の中には、未加工の素材も置かれている。
「形成しただけの素材はゴツゴツした印象ですが、実は意外と手に馴染むんです。
素材の重みや、その質感を感じてもらえたら」と話す。
「見ていて楽しい。触れて楽しい。何気ない固まりだって手に取ってみると実は心地いい。
そんな小さな発見を感じてもらえたら嬉しいですね」。

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 「アクセサリーにはそれぞれ寿命があると思うんです。
肌に触れ、空気に触れ、少しずつ劣化していく。
でもそれは自然なことだと思っています」。
ひとつずつ丁寧な鍛錬を重ね、時にメンテナンスも行い、
常に最善以上の思いで創作に向き合い続ける。
だけど素材の前では人間は極めて微力だ。
だからこそ素材に対して謙虚でありたい。
佐藤さんの言葉の端々には、そんな思いが感じられる。

 生み出したその7割が消えていく。
しかしそれは決して無駄なことではないのだと感じた。
「過去の作品の足跡は必ず残るし、今の作品にも必ず影響を与えているから」。
試行錯誤の創作活動はすでに10年を超えたが、
「今でも日々新たな発見がある」と佐藤さんはいう。
「”金属を鍛える”というひとつの行動だけでも、
意図していなかった模様が表れることがあります。
そんな”無意識”の感覚を、今後は”意識的”に使いこなして表現していきたい」。
最後に佐藤さんの夢について話を伺うと、少し考えた後、
謙虚で、いかにも彼らしい答えが返ってきた。
「100年先のどこかの骨董市に、自分の作品がひとつでも並んでいたら幸せですね。
100年先の人が、一人でもその価値を感じてくれたら嬉しいです」。
世界のどこかの国の店の片隅。
ひっそりと置かれた小さな建物。
それを手に取る男の子の目を輝かせることが、佐藤さんの生涯の目標だ。

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