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「“自分がやりたい事をできる喜び”って、
きっと誰でも平等に与えられているんだと思うんです。」

新川 佳代子(イラスト・雑貨)

その羊、『セバスチャン』。
性別はないが、なぜか皆から「彼」と呼ばれる。
元々“羊の置き物”と呼ばれていたが、
「羊だから、セバスチャン」という友人の一言でこの名になった。
名前の由来が曖昧なら、その誕生経緯も曖昧で
「羊毛を使って作るなら、やっぱり羊」ということらしい。
初めて目にした時、佇まいと、その違和感に、意外な心地よさを感じたことを覚えている。

 世を憂うような、もの言いたげな表情。
「この表情を描くことがいちばんのこだわりなんです」と、彼女は胸を張る。
新川佳代子さん。セバスチャンの生みの親だ。
東京で会社員として働きながら、イラストを中心とした作家として活動する。
このセバスチャンも「イラストを知ってもらうきっかけに」と
数年前に始めた雑貨づくりの一環だ。
「雑貨づくりを始める時、“くだらなくて、クスッとできるもの”がつくりたくて。
そうしてセバスチャンは生まれました。
日常の、ちょっと意外な所に潜んでいて、ふとした瞬間に目が合う。
それが〈正しいセバスチャンの使い方〉」なのだとか。
さらにセバスチャンについて掘り下げようとするも、
「なんだったかなー」「いつだったかなー」と、何だか歯切れが悪い。
自身が生み出したセバスチャンなのに、どこか他人事のように新川さんは笑う。
ふと目が合ったセバスチャンだって、そんな事はおかまいなしだ。
彼女と話していて感じる空気感。その心地よさ。
やっぱりふたりは、よく似ている。

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 ゆるやかに続く会話の中で、イラストについて話が及ぶ。
話し口調は穏やかで、やわらかな雰囲気もそのままだけど、心なしか言葉の節々に熱を増す。
ありふれた言い方だが、その瞬間、彼女の中のスイッチが切り替わるのを感じた。
地元で働きながら作家活動をしていた新川さん。
突如、東京行きを決意した時の話から聞かせてくれた。

 当時から仕事の傍ら作家活動に取り組んでいた。
生活は安定していたが、ふと違和感を感じることもあったという。
「イラストが好きで、どこかでずっと描き続けたいという思いがありました。
イベントなどで描く機会はあったのですが、それまで仕事として描くことはほぼ未経験。
自分がイラストで生活していく姿が思い描けず、ずっと躊躇していました。
ただ、このままずっとモヤモヤした気持ちで過ごしていていいのかな、
という思いが日に日に強くなって」。
「その時自分にできる事は、思い立ったタイミングに即行動する事だった」と、
突如、東京へ生活の拠点を移す事を決意する。
「同世代の友人たちが結婚や出産といった新たな人生を歩んでいく中で、
正直、不安の方が大きかったです。
知り合いもほとんどいない、働く宛てもない。
当然ですが、相談したほとんどの人に反対されましたね」と笑う。
決して早くない、遅すぎるともいえるタイミング。
そんな中、背中を押してくれる言葉もあった。
「“たとえ失敗したとしても、無駄な失敗はない”という言葉は、今も印象に残っています。
自分でさえどこか無謀に感じていたことを応援してくれる人がいる。本当に心強かったです」。

 自ら決断し始まった新たな生活だったが、予想していた以上に平坦ではなかった。
慣れない生活に追われる日々。気づくと作家としての活動時間は以前より減少していた。
焦りや苛立ちがない訳ではなかったが、自身で選んだ道と現状を受け入れるしかなかった。
環境の変化の中、新たな交友関係も広がった。
その中で得られる経験や学ぶ事ことも多かったが、
時に辛辣な言葉も聞かされることもあったという。
「“他に仕事をしている時点で逃げ道をつくっている”とか、“仕事のレベルではない”とか。
その言葉に落ち込みもしたけれど、周りを見渡すと、
並々ならぬ覚悟で向き合っている人たちがたくさんいた。
そんな環境に身を置いている事が、自分の選んだ道なんだと改めて実感しました」。

 チャンスは突然やってくる。
「以前からイラストを見てもらっていた知人から、広告イラストの依頼を頂きました。
それも、某ショッピングモールで広告イラストを描くという大規模なもの。
何も実績のなかった私にとって、本当に奇跡のようなお話でした」。
「好き」で描き続けてきたイラストが、初めて「仕事」として求められる。
それは「理想」と「現実」の違いを改めて痛感する経験でもあった。
「広告イラストは、クライアントがいて、コンセプトがあって、
それに応えていくということが大前提です。
途中で方向性が変わることだってある。
明け方まで何度も思案して絞り出したものが、
結果全て却下される事だって珍しくはありませんでした。
自分なりにいくら努力したとしても、それが相手に届かなければ、結局は自己満足でしかない。
理解していたつもりでしたが、やはり当初は戸惑いも大きかったですね」。
相手の意向に対し、いかに柔軟に応えていけるか。いかに期待を超えていけるか。
その繰り返しで信頼は生まれ、初めて“プロの仕事”として成り立っていく。
この経験は新川さんを新たなステージへ導いていく。

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 2016年から広告代理店に入社。また新たな環境での日々が始まった。
「ひとつのものを創り上げるのには
本当にたくさんの人が関わっているのだということを改めて実感しました」。
今は自身もその中の一員として、様々な案件に携わる日々を送っている。
「社内のディレクターさんの中には私のイラストを使ってくれようとしてくれる方もいて。
それでも今は、与えられた仕事をしっかりこなし、全うしていく事が目標です。
将来的にイラストレーターとしても期待に添えられるよう、
少しずつでもイラストの幅を広げていきたいですね」。

 新川さんの決意、その行動には、「覚悟」という言葉がよく似合う。
けれども彼女自身から、そんな気負いは全く感じられない。
「“自分がやりたい事をできる喜び”って、
きっと誰でも平等に与えられているんだと思うんです」。
その言葉を体現する彼女と話していると、
こちらまで背中を押されたように感じるから不思議だ。
「イラストも雑貨も、生活の必需品ではないんです」と新川さんは言う。
「それでも、必要としてくれる人がひとりでもいる限り、
私はずっと描き続けたいと思っています」。
今回、ふたりの新川さんに出会った気がした。
イラストレーターとしての新川さんと、雑貨作家としての新川さん。
クライアントに応えようとストイックに取り組む姿と、
「セバスチャンのコンセプトって必要ですか?」と戸惑う笑顔は、
似つかわしくはないけれど、やっぱりどちらも彼女らしい。
「イラストレーターとして細く長く生きていきたい」と笑う謙虚な言葉も、
「答えが見つからないものは、無理に探さなくてもいい」という深い瞳も、
どちらも彼女なのだ。
見下ろす先のセバスチャンはやっぱり憮然としているけれど、
初めて会った時よりも、少しだけ誇らしげに見えた。

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