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「心地いいものを作るのが僕の仕事やから。
 だから芸術家ではなく、職人になる道を選んだんです。」

奥 田 章( 文 五 郎 窯 / 器 )

 例えば、両面使える皿。重ねておけるマグカップ。
ありそうでなかった器の数々を、使い手の声をもとに創作し食卓に届け続ける、奥田章さん。
今から約150年前、滋賀県信楽に開かれた『文五郎窯』を
兄の五代目・文悟さんと共に営んでいる。
日本六古窯のひとつにも数えられる「信楽焼」の伝統技法を継承しながら、
現代の暮らしに馴染む機能とデザインを取り入れた器を提案する気鋭の陶芸家だ。

 2000年から本格的に陶芸家として活動を始める。
日々の創作活動と並行して自身のオリジナル創作にも取り組むが、
「長い歴史のある信楽焼において、
今までにないオリジナルを生み出すことは容易ではなかった」。
試作と失敗を繰り返す中でたどり着いたのが、信楽焼特有の感触と深いロクロ目を施した器。
素朴な手触り、その口あたりの良さから周囲の評判は上々だったが、
奥田さん自身どこか引っかかるものを感じていたという。
「様々な作家やその作品の魅力を施した器は、果たして本当のオリジナルと言えるのだろうか」。

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▲丁寧に使い込まれた道具の数々。

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▲やわらかい春の日差し。土本来の風合いも味わい深い。

 きっかけは意外なところから訪れた。
ある時何気なく目にしたのは、ファストファッションブランドのフリース。
「裏表で着られる服ってずっとあったけど、どこかダサいイメージもあって」。
ブームになったのは意外だったと笑うが、
同時に「自分の中で何かがカチッとはまるのも感じた」という。
従来の機能に新たな性能とデザインを付加する、その「発想」に
「〈伝統を継承しながら、現代の生活文化に寄り添う器を届ける〉という、
今の自分にも通じるきっかけとなった」と、当時のことを振り返る。
完成した作品は、2004年信楽焼総合展に出品され、優秀賞を獲得する。
受賞作『リバーシブル』は、その名の通り表裏両面の使用が可能。
それまでの器の概念を一変させるとともに、今も奥田さんの代名詞となっている。

 西洋化する現代の食生活において
「食材の鮮やかさを引き立たせるとともに、器自体にもその意味、存在感を持たせたい」
と奥田さんは語る。
深みのあるリム、モノトーンカラーのしなやかなデザインは北欧食器を思わせるが、
「まっすぐではない、竹のゆらぎのように」
ひとつひとつ手書きで描いた『トクサ」シリーズの装飾、
「揚げ物の食感をより長く楽しめるように」
表面に大胆な溝を施したロングプレートにみる心配りなど、
その随所には、日本らしい細やかなやさしさが感じられる。

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▲奥田さんの代表作「リバーシブル」。(写真中央左)

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▲文五郎倉庫に並ぶ「トクサ」シリーズ。

 器ひとつひとつに決められた使い方はない」と奥田さんは言う。
「使い方はそれぞれ使い手さんが決めてもらえばいいんです。
ある時はパスタを、ある時は煮物を盛ってみたり。
そういう使い手さんの声で今の僕が作る器があると言ってもいいくらい」。
工房に併設するギャラリー「文五郎倉庫」には常時たくさんの器が並ぶが、
訪れる人たちの「ひと回り小さく」「もう少し深く」といった
些細な相談に耳を傾けてくれるのもまた奥田さんらしい。
そうしてまたひとつ、食卓を彩る新たな器が生まれていく。

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▲器の説明をする奥田さん。その気さくな人柄も魅力。

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▲全国から届く注文から新しい器が生まれる。

伝統を未来へつなぐ壮大な使命と誇り、更なる高みに挑み続ける日々。
その想像するに難くない重責とは裏腹に、
奥田さんの周りには意外なくらいゆるやかで、やさしい時間が流れる。
東京をはじめ各所から個展の誘いは今も引きも切らないが、
「自分は芸術家ではなく、職人やから」と軽やかに笑うその言葉通り、
時間が許す限り信楽の地で創作活動を続けている。
まっすぐに芯の通った職人の確かな術が織りなす、繊細でやさしい器の数々。
あなたの食卓でもぜひ体感してほしい。

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